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ふぉにろぐ - the BLOG of PHONIC
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https://www.youtube.com/watch?v=s53mnhWZpHQ

「崇徳院」 二代目桂枝雀

欲に踊らされた悲しい男の物語。
「他人のちょっとした困り」の笑い。貧乏って悲しいね。
笑いのエッセンスが豊富に詰まった作品。

00:00-04:57 まくら
・緊張の緩和
・船場=大阪市中央区の地域名。「天下の台所」として栄えた大坂の町人文化の中心
・商家=町屋。町人の住む店舗併設の民家
・長屋=複数の住戸が水平方向に連なり、壁を共有するもの
・おやだんさん=商家の主人
・ごりょんさん=主人の妻
・ばんとうさん=番頭、商家使用人の最高位
・わかだんさん=主人の跡取り息子。作次郎
・てったい=手伝い
・くまさん(くまはん)=主人公。熊五郎。使用人。髭面。バケツみたいな顔

「一生懸命のお喋り」は二代目桂枝雀がまくらで多用するフレーズ。"naturally"、"require"などあえて英単語をちりばめるのも特徴的。
「緊張の緩和」とは二代目桂枝雀が提唱した、笑いの発生要因の分類。落語のサゲの分類も含む。「他人のちょっとした困り」は本編全体を通しての主題でもある。またまくらと本編の切り替わり際の緊張を逆手に取った笑いも見られる。
船場辺の商家が舞台となる落語では船場言葉が多数登場。時代背景的、方言的に聴解が難しいものも存在する。
登場人物紹介があるが、ばんとうさんは発言がない。またごりょんさんも不明瞭(お清がこれに相当?)。一方で熊五郎の(かか=妻)は発言もあるのに紹介されていない。以上のことからここでの登場人物紹介はディテールにこだわっておらず、非常に典型的な登場人物で作品が構成されていることを伝えるだけの意図であると思われる。

04:57-07:02 おやだんさんから熊五郎への相談
・熊五郎=声が大きい。作次郎(わかだんさん)とは子供時代からの仲
・作次郎=二十日程前から気病で寝込んでいる。熊五郎に思い事を伝えたがっている
・見立て=医者の診断
・さいぜん=ついさっき
・気病=胸に思い詰めるものがあることで起こる病。思い事を叶えてやることで治る
・ちさい=小さい
・時分=時代
・馬相=気の合った仲間
=妻。熊五郎の妻

小声のおやだんさんと大声の熊五郎。このような小声/大声や病気/元気、インテリ/アホなどの陰陽の対比による笑いはよく見られる(「代書」などが典型)。

07:02-14:35 作次郎の気病の真相
・塩梅=体調
・どんならん=どうしようもない
・もの言わぬは腹ふくるるわざなり=言いたいことを我慢すると良くない
・おおけありがと=おおきにありがとう
・おまはん=お前さん
・さかい=だから
・高津さん=高津宮。高津神社。仁徳天皇を主祭神とする。「崇徳院」以外にも「高津の富」、「高倉狐」などの上方落語の舞台となっている。境内には五代目桂文枝の石碑がある
・絵馬堂=奉納された絵馬を掲げておく建物
・ぎょうさん=たくさん
・おつやか=???(誰か意味を御存知でしたら教えてください)
・先さん=先方。相手方。
・緋塩瀬=緋色の絹織物
・茶帛紗=茶道具を拭く道具
・料紙=ものを書く和紙。書くための道具(筆、硯など)も暗に含まれているか
・池田の山=五月山。池田市から箕面市にかけて連なる。池田の狩人が登場する「池田の猪買い」という上方落語がある
・崇徳院=第75代天皇。「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末にあはむとぞ思ふ」は小倉百人一首の中では一字決まりの一首
・ほいない=不本意な
・欄間=天井と鴨居との間に設けられる開口部材
・天人=天界に住んでいる者。仏教用語
・掛字=掛軸
・鍾馗=中国の民間伝承に伝わる道教系の神
・身上成し(?)=金持ち
・抜かった=失敗した

季節が初夏(ぼちぼち暑くなる)であることが分かる。
作次郎と熊五郎のやりとりも陰陽。
作次郎が惚れた娘の特徴=二十日程前に高津神社の茶店で遭遇。作次郎より後にお供4, 5人を連れて茶店に来、作次郎より先に席を立った。17, 8歳。水も垂れるような美しさ。崇徳院の和歌の上の句を作次郎に残した。どこに住んでいるか不明。
後の会話で繰り返されるキーポイント:
a) 「水も垂れるような」を実際の意味で捉える
b) 「緋塩瀬の茶帛紗」を言えない
c) 「料紙」を「猟師」と誤解する
d) 「これくらいのこと(料紙の意味)知っとかないかんで」
人からの伝言を伝える、人からの助言を実践するといった件は落語(やその他お笑い全般)によく登場するが、このa)~d)は一つ一つ特徴が異なり、客にボケのパターンを予測させない見事な構成になっている。
ここのボケの展開では熊五郎はちょっと天然ボケだという印象を受けるが、後の展開を含めると実はわざとやっていたのではないかとも思われる。

14:35-22:29 作次郎の気病の伝言と熊五郎に課せられたミッション
・わざ=災い
・生玉神社=生國魂神社。大阪市天王区にある神社。高津神社の目と鼻の先にある
・いとなる=痛くなる
・石川や浜の真砂は尽くるとも 世に盗人の種は尽くまじ=石川五右衛門の辞世の句
・しょう しょう しょうじょうじ=童謡「しょうじょうじのたぬきばやし」の冒頭。證誠寺は千葉県木更津市にある
・ボルネオ=東南アジアの島。インドネシア・マレーシア・ブルネイの三カ国の領土
・縦横十文(字)=縦と横い交差して「十」の字状になること。「縦横」は「たっちょこ」と読む
・証文=証拠にするための文書
・棒引き=(借金などの)帳消し
・尻からげ=着物の後ろの裾をまくりその端を帯に挟むこと

熊五郎は作次郎の話を聞いてアホらしく感じている。作次郎の気病の原因をおやだんさんに伝える件は、単純に熊五郎が天然でボケを繰り返してしまっていると考えるにはあまりにも細部の記憶の精度が高い。また以下の点は作次郎との会話の内容に反するか何の関係もないことで、熊五郎が意図的にオリジナリティを加えることでアホらしさを逆に楽しんでいると考えた方が自然である。この部分は非常に見事。
#「高津神社がわざしてますよ」
#「おそらく夕立かなんかに遭うたんでしょう」
#「体中からぼたぼた(×3)水が垂れてそこらびちゃびちゃや言うてましたで」
#「わたいやったら棒持って行って後ろからごーんといったんねんけどね」
#「あんたさんのと違いますか?」の言い方
#そのまま「りょうし」と言うとおやだんさんには普通に「料紙」ととられてしまうため、あえて「狩人」に変換
#石川五右衛門の句を(即座に)引用。17, 8歳の美しい娘のイメージと比べてゴツすぎる
#「しょう、しょう、しょうじょうじ」、今度は逆に幼稚すぎる
#「障子張るか、あ、破れたらまた張れ」、歌ですらない、という風に多彩にボケる
#「百人一首ちゅう中に「人喰い」ちゅう人ありませんか?」
#「聞いてたな」とその手振りを二回繰り返す(おやだんさん側が「聞きゃあせん。たいてい分かる」とほぼ同じセリフで返すのも良い)

作次郎の病状についての新情報として、「ほっといたら5日持たない」という点が加わった。
作次郎が惚れた娘を首尾よく探し出したら、借金の帳消しと一時の御礼が待っている。
おやだんさんのテンションが予想以上に上がってしまったので熊五郎が「どこのお方か分からんっちゅうのですね」と言いづらそうにしているところ以降は急に陰陽が逆転したかのような状況になっている。あれだけ発言力のあった熊五郎のセリフをおやだんさんのセリフに集約することで、おやだんさんの勢いを止めず一気に熊五郎を旅立たせる流れに持ち込んでいる。
大阪、京都、名古屋、浜松、静岡、横浜、東京。後にが同様のことを言うがおやだんさんは東日本。

22:29-27:33 ミッション1日目
・荒物屋=家庭用の雑貨類を売る商売
・手文庫=手もとに置いて、手紙や書類などを入れる小箱
・ご大家=金持ちの、または社会的地位の高い家
・おめおめ=恥であることを知っていても、仕方なしにそのままでいるさま
・おもやこそ=思うからこそ
・平生(へいぜい)=ふだん。つね日ごろ
・厘=銭と並んでかつての日本の補助貨幣単位。1銭が1/100円であるのに対し、1厘は1/1000円
・欲と二人連れ=欲につられて行動することをたとえた諺
・上町=大阪市中央区の町名

バケツみたいな顔は元からだ。
大阪、神戸、姫路、岡山、広島、下関、九州、四国。おやだんさんと同様のことを言っているがは西日本。
熊五郎の「手がかりちゅうもんは日本にお住いなはるお方っちゅうだけですよ」というセリフには聴衆に崇徳院の歌の手がかりがあることを一時的に忘れさせることで、より一層困難なミッションに熊五郎が挑んでいるという状況を作り、「他人のちょっとした困り」の笑いを増幅させる効果があると思われる。
御礼が増加。裏の蔵付の五軒の借家と三百円。後に熊五郎の一日の稼ぎが48銭ということが明らかになるので、三百円とは凡そ2年分の年収に相当する。
(一円の価値が現代と大幅に異なる点は古典落語が現代人にとって難解である要因の一つになっているらしい)
三百円は5厘玉なら6万枚になる。
欲に負けた熊五郎はさらに3日の猶予を申し出、おやだんさんに許可される。作次郎がほっといたら5日もたないという点を踏まえた熊五郎なりのギリギリのラインの申し出であると思われる。

27:33-31:43 ミッション2日目
・おえはん=主人の母
・手蔓=手がかり
・大和=奈良県内の地名?

ぐるぐるのところは見事としか言いようがない。ところどころぐるぐるを止めたり、最後の「わかりません」を極めて弱く言うところも緊張緩和で遊んでいる感じ。
が蔵付の五軒の借家を手に入れた際の妄想シーンも素晴らしい。この作品の登場人物はボケ役として極端になることはあっても決して悪人は一人もいない。
ミッション1-2日目の熊五郎の探し方が明らかに。ここで崇徳院の歌が手がかりとして再浮上する。

31:43-38:09 ミッション3日目前半、ついに発見か!?
・なんとのう=なんとなく
・つかえる=混んでいる
・ええまん=良いタイミング
・負うた子に教えられ=負うた子に教えられて浅瀬を渡る。自分より未熟な者から教えられることもあるということ
・鳶が鷹を生む=平凡な親からすぐれた子供が生まれること

崇徳院の歌を人が大勢集まっているであろう床屋やお風呂屋、または道で大声で歌うという作戦に。もうちょっと効率的な方法がある気もするが、熊五郎をちょっとした困りに陥れるためには非常にうってつけな方法である。
「瀬をはやみ」と言おうとして通行人がびっくりするシーンの表現も見事。時代に関係なく通用する。
床屋で大声を出して客が驚くシーン、非現実的でちょっとアホらしい熊五郎の置かれた状況と現実的でやや知的イメージのある「心臓病」や「医者」といったワードとのギャップで知的緊張緩和をもたらしている。
熊五郎は「鳶が鷹を生む」という表現を理解しているので、「水も垂れるような」や「料紙」なども意味を知っていてわざとボケた可能性がある(作次郎の病気をばかばかしく思っているため)。熊五郎を単純に知的な表現を知らない人物として認識してしまうと、「鳶が鷹を生む」も曲解しないと不自然な流れになる。

38:09-43:07 ミッション3日目後半
・頭領=集団のかしら。首領
・主屋(おもや)=主人の家
・御出家=仏道を修行する僧
・滂沱の涙=とめどなく流れる涙のこと
・下寺町=大阪市天王寺区の地名。高津神社、生國魂神社も非常に近い
・乳母(おんば)はん=母親に代わって子育てをする女性
・カムチャツカ=ユーラシア大陸の北東部にある半島。ロシア

髭面の熊五郎は床屋に行き倒したために僧のような見た目になったため、「御出家」と呼ばれた。
頭領風の男の主屋の娘が「今日明日(の命)」ということで作次郎とまったく同じ病状である。
作次郎と相手の娘は結局近い地域に住んでいるということと、作次郎の病状が大阪一の名医に診てもらってようやく分かったという点を踏まえると、相手の娘を診たのも同じ医者なのではないか?だとすると気の利かない医者である。
タイムリミットギリギリでようやく相手の娘を見つけ出すことに成功し、全員がハッピーになるというエンディング。
通常の「崇徳院」では熊五郎と頭領風の男とのもみ合いの末に床屋の鏡が割れ、主人が「どないしてくれんねん?」と訊くのに対し、熊五郎が「割れても末(=月末)に買わんとぞ思う」と崇徳院の歌の下の句に合わせにいく「謎解き」タイプのサゲが使われるが、このサゲの良し悪しを巡っては多くの議論がなされている。作次郎の人徳と高津神社の仁徳(天皇)を掛けたサゲが用いられることもある。枝雀はサゲが弱い噺の場合には今回の「崇徳院というおめでたいお話でした」のように一言添えて終えることが多い。

[あとがき]
前から聞いたことのある作品だったが、じっくり聞いてみると詳しく知らない単語を結構スル―していることが分かった。笑いながら教養も身に付くとはなんともお得ですね。特にこの崇徳院はまくらに「緊張の緩和」についての簡単な解説もあり、非常に有り難いお話。ただ初回にしては長い作品だったように思うのでもう少し短いものや創作落語などの聞きやすいものもレビューしていきたい。
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